2007年 06月 01日
第16回 蛍と梅雨と四川料理第 |
case study04
「spiritual foodは美味しい」酒井礼子
その旅は、一本の電話で始まった。
「梅雨の時期は、人間にとっては不快だけれど、空中を我が物顔で飛び回る生物を見にこない」ムム何だろう、その生物ってなにかしら?「蛍よ蛍、群れをなして何百m先から自分に向かって飛んで来るのよ、見にいらっしゃい…、ああそれと一日一組予約の四川料理はいかが?」「来る時は雨の日は駄目よ。螢が見られる気象条件は、一日中雨が降っていても、夕方にはやんで気温が高く、ムシムシと湿気の多い日がいいの」そんな難しい事を言われても、梅雨時の天気予報を見てしかもその日に出かけるなんてかなり難しい。でもこのチャンスは逃したくない。
私の頭の中に「蛍」「蒸し暑い日」「四川料理」3つの単語がインプットされてまった。仕事どうしよう…。3日悩んだが行動に移す事は最初から決めていた。これは運命なのだ。 神様の贈り物を断る人はいないだろう。蛍狩りと言えば、目白の椿山荘しか行った事がない私、入場料と引き換えに団扇を渡されて、夕闇の中でポツン、ポツンと輝く蛍、それはそれで風情があるように思えたが人工的な庭園と、大自然とでは比べ様も無いはず。そうか、あの時の団扇は螢狩りのイメージサービスではなく、蒸し暑さと蛍との生態関係から、不快さを感じるゆえ配られたものだったのだ。
6月×日、朝から晴れわたった空、前日は大雨、天気予報では翌日は雨、この日しかない。朝早くから胸躍る一日の始まりになった。午後2時30分東京を出発、目指すは静岡県。夕方の6時30分頃には現地に到着しなければ。こういう時の行動力はすごい。
準備OK。 虫除けスプレー、ハンドタオル、足場が悪くても歩けるスニーカー、ナイロンブルゾン、デジカメ、懐中電灯、etc。文明人の浅はかさがこの携帯品に表れている。自然の中に足を踏み入れる時には、私達が侵入者であると言う認識がないとルール違反だ。虫除けスプレー、デジカメなんておぞましい。結局、持ってはいったものの使う暇はなかった。西側の海岸沿いを日没めがけ車を走らせる、ちょうど6時30分ごろ、太陽が海面にキラキラと陰を写しだした。知人に連れられて山の奥に入り込んで行くと、何やら期待が膨らむ。
素肌に吸いつくような湿気を感じ、確かに平地より湿度が高い。いくつもの村落を通りすぎ、人里離れた場所にぽつんとヨーロッパ風の庭と建物が目に入る。此処だ、四川料理を食べさせてくれる処は。じめじめした日は、辛い香辛料でスカッと胃を刺激したい。
だけど今日は、蛍が目的の旅。 空腹のお腹をなだめつつ、蛍の住処へ向かった。
それは、それは、アドベンチャー気分たっぷりの蛍狩り。山間の山葵棚を登って行く、真っ暗な闇にやっと目が慣れた頃、ポツン、ポツンと浮かぶ明かりが見えた感動の一瞬だ。案内人の御主人から、これが源氏蛍、平家蛍はもう少し後になると説明された。何時も強者、前者が源氏、弱者、後者が平家に例えられる。源氏のほうが体も大きく、放つ光も大きいと言う。山頂に近づくと山葵畑の終点にお月見台の東屋が見えた。その夜は梅雨時でも珍しく星空が広がっていた。このあたりは肉眼で天の川まで見える。天空を見上げながら山を登ると、星にまぎれて蛍が流れ星のように飛び交う。感動の一言、息を呑む美しさだった。この山葵畑の持ち主は、蛍の為に山葵に農薬を撒かない。蛍の幼虫のえさであるカワニナが死んでしまうからだそうだ。お陰で山葵の葉は虫食いだらけ、総額何千万円単位の損失らしい。蛍は、平地から気温が上がるにつけて山に登って行くという。やはり都会の明るい空の下とは風情が違った。こんな東屋があるならば、お酒でも持ってくれば良かった。首にかけたデジカメの重さに、ふとこれがビールならと思う。喉が渇いたなぁ。そろそろ下に降りましょうか…。そうしましょう、お腹もすき限界。
次は待望の四川料理にしましょ。 ヒーフー、ハーフー食べたーい。ということでその日のメニューを公開
●キャベツのラーパーツァイ
●蒸鳥、モロッコ風唐辛子ペースト添え
●有頭海老の唐辛子炒め
●鶏肉とカシューナッツ炒め
●酢豚
●五目野菜のお焦げ
●淡白な鳥のスープ
●とても大きな枇杷
● コーヒー
山奥の一軒家でもてなし料理を頂いている風、予約専門の四川料理家なのだ。御主人が料理人で奥様がサービスを担当、中華料理は趣味だったとか。彼らは横浜からの移住組み、だから都会の味がそこにある。私達(自然派症候群のひ弱な都会人)にとって、貴重なお店である。美味しかったな酢豚、最近食べた酢豚の中でナンバーワンであります。衣がカリカリ甘酸っぱいソース、ここの御主人はなかなかの腕前とお見受けしました。
そしてもうひとつの楽しみは私の定宿、海を一望する隠れたクラブハウス。まるでバリのコテージのよう。ここの経営者も湘南からの移住組み、建築に5年以上も費やした手作りのクラブハウス。最高のもてなしは泊り客をほったらかしにしてくれる、地元ならではの話が面白い、そして我侭を何時も聞いてくれる。朝の目覚めがいい、鳥の声が夜明けを知らせてくれる。電話もテレビも無い、日常生活のスイッチをOFFに切り替え充電することができる。この夏には、ご主人が梅雨時の間修理した船で何やら遊ばせてくれるようだ。至高の宿だ。
朝食も楽しみの一つ、毎晩奥さんがおかゆか、純和食か、洋食か聞いてくれる。朝ご飯と言っても、昼食も食べられないほど食べてしまう。全て手作り、畑から田んぼまで耕し、蜂蜜まで作っている…私のお気に入りは、ピーマンの炒め煮、蕗の葉炒め煮、錦松梅、お出汁の葛餡がけお粥トーストにのせた夏の花のはちみつ…一干の魚。あぁ満腹の喜び、いつも御馳走様。(2003/08/08)
club king、mother dictionary、case studyより引用!
by reiko_sakai
| 2007-06-01 08:43
| 遊び