2006年 07月 31日
第6回 8月 夏きたりなば甘味恋しい昼下がり |
case study04
「spiritual foodは美味しい」酒井礼子
ムクムク入道雲に青い空、太陽の光が目に眩しい。木々の葉を抜けてくる乾いた風、突然に天空を引き裂くような雷の音、蝉の合唱、日暮の夕暮れを告げる声、朝顔の蔓はどこまでも天に向かい色鮮やかに咲き誇る。
盛夏の情景はドラマチックで印象的、幼いころの思いではなぜか夏の出来事ばかりを思い出す。井戸水で冷やした丸ごとの西瓜や麦茶のおいしさ、茹だるような暑さでも井戸水をたらいに汲み、足をつけて本を読んだり…縁側に竹で編んだ夏用の枕で昼寝をしたり、花火がしたくて早く夜にならないものかと母のサングラスをつけ笑われた事もある。20世紀半ば過ぎの日本は子供ものんびりと時間を過ごしていたように思う。「夏休みの思い出」家族で旅行をしたり、映画を観たりいろんなイベントがあったけれど、今思い出すのはそんな失われた情景ばかりだ。蝉もカブト虫も採集するにはさほど困らなかった時代が懐かしい。
私の家は古い日本家屋だったので風通しもよくエアーコンディショナーなど無縁で、暑ければ外に水をまいて、簾越しの風を楽しんだ。家の2-3軒さきに甘味屋さんがあって夏になると表の引き戸をはずし、暖簾だけが外と内との境目になる。古いかき氷をかく機械が入り口近くに置かれると、いてもたってもいられない。お婆さんがひとり、白髪の髪を夜会巻にねじりあげ、浴衣風のワンピース姿がお決まりで、手には団扇を持ち店番をしている。もちろん店内はエアコンなど無く、涼を得るためにかき氷を食べるのである。小豆と苺ミルクが私のお気に入りだった。そのころは真夏に大好きな苺を味わうのはすごい事だと子供心に思ったのでした。思い起こすとそれは、苺フレーバーで、食べた後は舌が赤く染まる苺もどきだったけれど(時代は変わっても苺フレーバーがほとんどだけれど)ブタの貯金箱を壊してもいいから毎日食べたいと思ったものでした。
そしてもう少し成長すると今度はあんみつ狂になったのですが、これがまた粋なお婆さんふたりが二階建てのしもた屋で営む甘味屋が好きでした「春日」と言う店ですが、注文をしてから茹でてくれる白玉がすばらしく美味しい。こんな思い出の味が私の店の原点なのです。(現在は2店ともありません)
甘味屋というと女性専門と連鎖的に思われますが、歴史をひもとけばその昔は伝統的、日本式喫茶店だったわけで時代劇の茶店が変化したもの。そして、花街には必ず甘味屋があって、それは芸子さんの為にあったわけではないらしい。男女が逢い引きを堂々とできる唯一の場所であって、甘味屋の二階は個室になっており誰の目をはばかる事も無く、お汁粉やかき氷などを食べながら甘い会話を楽しんだという。色っぽいなぁ。目に浮かぶ様です、日傘の似合う色白美人と、パナマ帽に着物姿の旦那と…想像力が異常になりそうなのでこの辺で後は御自分で御想像下さい。
というわけで、夏来たりなば甘味恋しい昼下がり。
でも気をつけて下さい、かき氷は手回しの機械でかいた氷と、オートマチックでかかれた氷では、粉雪とざらめ雪の差ぐらいあるのですよ。氷やさんが水にこだわり、昔ながらの製法で澄んだ氷を作り、それを鋸で挽いてわけてもらう氷は格別なもの、この夏、氷探検してみてはいかが。
平成十四年八月
club king、mother dictionary、case studyより引用!
by reiko_sakai
| 2006-07-31 12:00
| 食